江戸崎昔話「満月ふたつ」
稲敷市には沢山の昔話しがあります。
これを沢山の人に知ってもらおうと、今ミニ絵本を作成する準備をしています。
人形劇に出来たら楽しいかもなぁ。
今日はそんな稲敷の江戸崎に伝わる昔話しをご紹介。
満月ふたつ
昔々、ここいらは木や草がうっそうと茂る山でした。
山をおりてくるとおじいさんとおばあさんの住む家が最初の家です。
村人が山を越え、用をすませて帰る頃はたいてい夜になってしまい、おじいさんとおばあさんの家のあかりが遠くに見えてくるとほっとしたものでした。
山に入って少し行くと、分かれ道に大きなえのきの木があり目印とされ、畑仕事に精を出す村人たちの憩いの場でした。
ある所に、おじいさんとおばあさんの家のずっと下に住む彦次といういい若い男が山ひとつ超えた隣村に婿入りしました。ある日、畑仕事を早めにすませての初めての里帰り、久しぶりにお父さんやお母さん、それに兄弟に会えると思うと急ぐ足取りも軽いもので、秋の満月がこうこうと、木の間の葉陰から足元を照らしています。
そう思って彦次が前をみると、なんと、今まで自分の足元を照らしていた月が、すぐ目の前に、しかも大人の人抱えもある大きなザルほどの大きさでぼうっと光っているではありませんか。
「ひえ〜っ!」もう、彦次はびっくり仰天。いちもくさんに、山道を転げるようにかけ下りると、おじいさんとおばあさんの家に駆け込みました。「た大変だ、おじい、えのきの木の所に満月が二つ出ただよ」。
すると、おじいさんは、「うん、そうなんじゃ、おめえが婿入りして間もなくの事じゃ、あそこを通る旅のもんや村の人がもう何人も腰を抜かして、ここへ転がりこんどる、どうやらムジナの悪さにも困ったもんじゃ」
すると、子供のころは勇敢でガキ大将だった彦次は「ようし、そんならおれが退治してやる」。婿入り先からは、3日の暇をもらって来たので時間もたっぷりありました。
次の晩から、彦次は太くて長い竹の棒をしっかり握りしめ、えのきの木の前の草むらに身をかくしました。満月がくっきり輝いています。ほどなくして、西の中空に見える満月より何倍も大きな、そしてろうそくの火の色をした満月がえのきの枝の間に浮いている、目をこらしてみると、その光でムジナが逆さにぶら下がっているのが、おぼろげながら分かった。さらによく見ると、その光の下で、ムジナたちが宙返りをして、男や女、子供などに化けて踊っているじゃありませんか、そのひょうきんで楽しそうな事。
彦次は退治する事などすっかり忘れて、三晩とも、彦次は化かされたという事よりも、その何ともいえないムジナの無邪気さにまいったのでした。
それからも、江戸崎じゅうのあっちこっちの山に満月がふたつ出たそうです。 とうとう退治したものはいませんでした。
おしまい